海から

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海から

澱んで暗い波打ち際から、海水がゆっくりと持ち上がり人の形を作り出す。 海藻の様な髪が頭部にへばり付き、その隙間から血走った瞳がギラギラと覗く。 裏切られ生の苦しみから逃れる為に海に身を沈めた。 しかし、生きながら海に身を投げる事が予想を遥かに越える苦しみを、さらに浴びせ掛けるとは思わなかった。 物語りなら美しく、眠るように海底に沈んでいく。 現実は違った。 まず水温が夜ともなると、夏とはいえ冷たく、芯まで凍えさせた。 暗い海は口にしがたい不気味さがあり、魚か木片か何やら解らない物が当たる。 塩辛い水が鼻孔や口内を襲い、喉が酷く渇く。 目も鼻も喉も痛い。 乗って来たボートに戻ろうにも潮に流され、もう距離が出来ている。 ぬめった海水は纏わり付くごときおぞましさ。 衣服に水が浸み渡り、拘束する重き枷となる。 嫌だ!! 思っても遅かった。
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