長篠友美

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院内は廊下であっても適温が保たれているが、照明は最小限。 窓についた結露からすると、外はかなり冷え込んでいるようね。 ……今年の冬も、あたしにとっては寂しい季節になりそう。 うううん、もう半分なってるわね。 ……ひとりになると、どうしてもそんな考えに走ってしまう自分が嫌。 お婆さんの病室がセンターからそんなに遠くないことに、ちょっとだけ感謝して302号室に入る。 「武田さん? どうしました? 大丈夫ですか?」 ゆっくりと話しかけたけど、何の反応もないわね。 さっき見にきたときと何も変わらない……。 「ふう……」 軽くため息をついて、ベッドに近づくと、不自然なまでに規則的な寝息が聞こえてくる。 明らかにタヌキ寝入りというやつだわ。 少しだけ呆れながら、他に異常がないことを確認して、隣りのベッドに半分腰かけた。 まあ、分からないでもないわね。 身寄りがないわけじゃないのに、家族が見舞いにきた様子もなく、いつの間にか施設への入所が決まったらしい。もちろん体調が安定してからだけどね。 うちの病院と同じグループのとこだから、そんな情報も入ってくる。
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