長篠友美

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その晩も、いつも通り。 昼勤の話だと、例のお婆さんの退院と入所の日程が決まったらしい。 昨夜の謝罪と一緒にお祝いの言葉もかけてあげられると、少し気持ちが楽になってた……。 最初に異変に気付いたのは、同僚だった。 「あら? 今夜はお呼びナシなの?」 その言葉に時計を確認すると3時5分。 本当ならコールがないのが何よりなのに、あのお婆さんは逆。 困ったものだわ。 まるで童話の『オオカミ少年』みたい、と考えて少しだけ胸騒ぎがした。 飲みかけのレモンティーをそのままに、廊下に出る。 何もないとは思うけど、そろそろ見回りしてもいい時間のはず。 廊下はやや肌寒く、冷たい空気が首筋をなでていった。 ショールでも取りに戻ろうかな、などと考えたけど、そこで自分の思い違いに気付く。 院内の廊下がこんなに寒い訳がないじゃない。冷たい風が吹いてる段階ですでに異常。 いつしか、あたしの足は駆け足になってた。 あたしが向かう先の病室のドアが少しだけ開いている。 そこから冷たい空気が流れてる。 あたしはさらに走る速度を上げた。 小児科の子が描いた『走らないで』のポスターが目に入ったが、もちろん無視。 302号室に辿り着き、ドアを開け放ち、あたしの思考は停止した。
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