番外編 チョコレート

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番外編 チョコレート

「わあお……」  なんてこった。なにがどうなってこうなったんだ。  今私の目の前にはこの世のものとは思えない、恐らくチョコレートであろうお菓子が台の上に鎮座している。 「……」  香りも見た目同様、嗅いだこともないような感じ。雰囲気はズモモモッと禍々しい。どうやら私は世にも珍しいチョコを作り出してしまったようだ。  あ、大変だ。急いで換気をしなくては。私のチョコで犠牲者が出てしまう。  まあ、今は私一人だからいい。だけど買い物から帰ってきたユンさんとルカくんの身が危ない。私は生みの親だからいいけど、二人は関係がないのだから守らなければ。 「と……それよりもなぜだ、なぜなんだ。なぜこうなった」  なにがどうなってこうなった。いつも通り作ったはずなのに。  私はいろんな方向から世にも奇妙チョコを眺めてみる。  なんか嫌だな、これ。今にも話し出しそうだし、食べたら絶対にお腹を壊す。  そう言い切れてしまえるくらいのチョコを作り出してしまった。 「だがしかし私はこのチョコを食べるぞ! 絶対に食べきってみせる! 証拠隠滅含め材料に申し訳ないから!」  そう意気込んだ私はチョコを勢いよく口に含んだ。 「……」  口に入れすぎたかもしれない。ちょっと後悔してる。  むぐ、むぐむぐとチョコ噛み締めてみる。  ……あ、見た目とか気にしなければ意外と美味しいかもしれない。 「っ……! ぐっ!」  美味しいかもしれないって言ったのを全力で撤回する。このチョコ遅効性で危険がやってくるタイプのやつだ。  ……駄目だ、美味しくない。甘くもないし苦くもない、もっと言えば辛くもない。だけど頭が危険信号出しまくりの味。  そんななんとも言えない危険な味が口に広がってきて、ぼろぼろと涙が出てきた。  私は悪魔かなにかなのだろうか。いや、ある意味神様かもしれない。こんな素敵なチョコを作るなんて。 「……」  私は涙を溢しながらチョコの山を見つめた。  あんなにチョコが残っている。山ほどある、泣けるほどある。でも私は食べるんだ。  そう意識が遠ざかっていく中で私は心に誓ったのだった。       ***  どうやら世にも奇妙チョコのせいで気絶したらしい私が目を開くと、世界は真っ暗だった。 「食べると危険なチョコだったか……」  でも食材がもったいないって思ったんだもの。食べられるために生まれたのに、見た目や香りが駄目だからって捨てるなんて……まあ、そう思った結果がこれなわけですが。それに証拠隠滅も含めていたからなあ。食べない選択肢はなかった。 『我を創りし主よ。なぜ我を創り出したのですか』 「あー、まさかの気絶だけではすまない感じですか。本当になんてこった」 『我を創りし主よ。我が問いに答えてください。なぜ我を創り出したのですか』 「気絶まではセーフだけど幻聴は駄目だよ。あ、でも待てよ。ある意味すごいのかもしれない」  真っ暗な世界で一人ぶつぶつと言っていると、何かが肩を叩いた。瞬間、跳ねる私の体。  声が出ないほど驚いた。心臓が飛び出るかもしれないくらい驚いた。でも体は瞬発的に動いてくれて、何かから距離をとった。  もしこれが現実ならあとで絶対にどこかしら痛めてることに気づくパターンのそれだ。それくらい瞬発的に動いたし。  どっどっどっと鳴り続ける心臓を落ち着かせるように胸に手をあて、周囲を見回す。 「う、え……」  真っ暗な世界に徐々に薄ぼんやりとした光が現れる。そしてその光は大きな人形へと変わっていく。 『我を創りし主よ。やっと我を認識してくださいましたか』 「わ、私ですか……?」 『そうです』 「あなたを創り出した覚えがないのですが……」 『我は主が創り出したチョコレートです』 「チョ、コレート……」  え、まさか世にも奇妙チョコ。気絶だけはなくまさかの創造をしていた、だと。え、私のチョコどこまで行く気なんだ。
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