プロローグ

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―――13年前。 不気味な程に静かな、ある夜。 明かりの無い、幽かな月の光さえも届かない牢獄の小さな窓から空を見上げると、永遠に広がるその漆黒に呑み込まれそうになる。 蠱惑的ですらある静寂の空間をじっと見つめている内に、今にもこの手足がするりと枷をすり抜けて、身体は目の前にある筈の冷たい鉄格子さえ通り抜け、闇の世界に溶けて無くなってしまうのではないかと、奇妙な錯覚を覚える。 一体自分は今何処に存在しているのだろう? 「ねえ、ルナ。僕達‥何時になったら此処から出られるのかな…」 弱々しく、か細い少年の声。幼さの中に、鈴のような美しい響きがある。 その声に、ルナ、と呼ばれた少年は「ハッ」と我に返り、深く息を吐いた。 そして自分が抱いていた不安を微塵も感じさせない凛とした声で、力強く答えた。 「今夜。」 「えっ、何だって?」 思いもよらぬ答えに、戸惑う少年。それとは対照的に、ルナは冷静な声で続けた。 「今しか無いよ、ソル。此処から出よう。僕、昼間こっそり聞いたんだ。今日は何年かに一度、アイツが遠くに出掛ける日なんだって。余程大事な用なのか、側近達をみんな連れてさ。戻りは明後日の午後になるだろうって、召使達が話してたんだよ!」 「でも‥そんな事、出来っこないよ…っ」 「どうして?僕達の力を使えば、この屋敷の見張りぐらい簡単に振り切れるさ。」 「だけど…僕は君と違って体が弱いし、上手く逃げ切れるかどうか……。それに、そんな事をしてもし失敗したら‥っ」 ジャラ‥と金属の擦れる音がした。 ヒヤリ、と冷たいものがソルの頬に触れる。ルナが手を伸ばし、ソルの頭にそっと手を置いたのだ。 「大丈夫。もし万が一そうなったら、全部僕の所為にすればいい。ソルはただ騙されただけで、何もかもこの僕が一人で企てた事だって。そうすれば、ソルだけは助かる筈だ。」 「そ‥それじゃ意味が無いよっ!僕達双子は二人で一人、そうでしょう?‥もしルナに何かあったら、僕は…」 ルナは黙ってソルの手を取り、ある物を握らせた。 「これ…」 ソルにはそれが何なのかすぐに分かった。 それは、ルナが何より大切にし、どんな時も肌身離さず身に着けていた、傷だらけのロケットであった。 中には、幼いころに死別した母と三人で写った唯一の写真が入っている。
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