プロローグ

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ハァ‥ッ、ハァ…ッ。 少年達は、屋敷から十数キロメートル離れた静かな川の岸部に辿り着いていた。 川沿いに歩いて行けば、夜明けには一番近い町に着く。 「は、はははっ、此処まで来ればもう誰も追って来ないだろ。あーあ‥流石に最後の…いっぺんに五十人相手はキツかったな…」 ルナは上がる息を必死に抑えながら、気丈に振舞った。その場にごろりと横たわると、月明かりに照らされて、その美しい銀色の髪と青い瞳がキラキラと光った。 そこに、金色の髪と赤い瞳の少年が駆け寄る。 「ルナ‥手…血がたくさん出てる…っ」 「そういうソルこそ、さっきから涙出てるし。もう、兄さんが泣く事無いのにさ。」 「だって…ルナが痛いと、僕も痛いんだ。」 「ソルは優しいな、でも大丈夫だから。一緒に逃げられた嬉しさで、痛みなんて感じないよ。」 その言葉を聞いた途端、ソルは遂に声を上げて泣き出してしまった。 しゃくり上げる兄の華奢な肩を、ルナはそっと抱き締めた。 ソルは無傷であったが、精神的にも身体的にも疲れ切っていた。此処まで倒れずにいられたのは、ルナと一緒に脱出したいという強い意思ゆえであった。 これから如何するか…そんな事は後で考えれば良い。 あの地獄のような日々から、あの悪魔のような男から解放されるのなら、どんな生活でも天国に感じられる。 二人は生まれて初めて自由を手に入れた喜びを噛み締めながら、暫く黙ってサラサラと流れる川を眺めていた。 あれから何分経ったのだろう。 ふと見ると、月が水面に揺れていた。 「ルナ、あれ見て。綺麗だね…!」 ソルが無邪気に言う。 しかし、ルナは何故か全く別の印象を抱いていた。 穏やかな水流の中にあるのに、不思議とその歪な満月は、真っ黒な水の中で溺れているように見えたのだ。 まるで、じわじわと自らに迫り来る死を感じ取りながら、蜘蛛の巣の中で必死にもがき苦しむ、哀れな美しい蝶のように。 ルナは胸騒ぎを覚えた。 その後ソルが何か喋りかけたが、返ってきたのは曖昧な返事だけであった。 突然、辺りを生温かい強風が吹き出した。 すると、見る見る内に雲が広がり、川の中の蝶も姿を消してしまった。 「月が…」 ルナが思わず呟いたその時である。
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