プロローグ

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「‥楽しそうだねぇ。」 突然二人の背後から、不気味な程に優しく落ち着いた男の声がした。 同時に振り向いた少年達は声の主に驚いた。 端正な顔立ちに長い髪。表情を読み取る事が出来ない、眼鏡の奥に潜む漆黒の瞳。嫌という程目にしたことのある顔。 それは今日この場にいる筈のない人物…そう、二人がたった今逃げてきたあの屋敷の主であった。 恐怖と絶望に満ちた瞳で、ソルが呟く。 「お、父‥様…」 「やあ、二人共。一体何をしているんだい?こんな所で。風邪でもひいたら大変じゃないか。」 男が心底不思議そうに尋ねる。 「あ‥あの…」 屠殺場で死を待つ小動物のように震えるソルを庇う様にして、ルナは二人の間に立った。 そして上擦りそうになる声を必死に抑えながら尋ねた。 「…ところで、お戻りは明後日の筈じゃ…?」 「うん。でもちょっと胸騒ぎがしてね。急遽戻ってみたんだ。」 そう言うと男は、ルナの腕に目を留めた。 「ルナ、その血は一体何だい?‥大事な体に傷をつけるなんて、仕様の無い子だ。」 口元は人形のように完璧な微笑を湛えているが、この男は決して笑っているのではない。 少年達は長年の経験からそうと分かっていた。主が‥父がこの表情を見せる時、それは底知れぬ狂気と、激しく湧き上がる怒りを隠している時であると、今までの経験から二人はすぐに悟った。 ルナの背筋を冷たい汗が走る。 「ソルッ…逃げろッッ!」 「で‥でも…」 「早くッッ!!」 ルナの悲鳴にも似た必死の叫びが、ソルの震える足を動かした。
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