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深い藍色のローブを風になぶらせながら、王城の立派な石造りの廊下を疾走する者がいた。
「一一はぁ、はぁ、はぁっ…」
走っている内にかぶっていたフードがめくれ、頭部が露になる。
が、その者は、ローブと似たような群青色の髪を振り乱しながら気にせず走っていく。
「一一は、ぁっ、はぁっ、はぅおぇっ!」
ゲホゲホと咳き込み、脇腹を押さえながら必死に走る。
走る度にずれる眼鏡もたまに直しながら。
「一一はっ、はぁっ、はぁ…っ!」
そうして、辿り着いたのは、堅固な扉の部屋の前だった。
「一一はぁ、はぁ…ふぅ…。」
息を整えながら、扉に手をかけ、そっと開いたのだった一一一一。
******
「ああくそう、またかよ。」
青年は一人愚痴っていた。
周りには最近ここら辺を溜まり場としているらしい質の悪い不良の群れ。
「ねー、お金貸してくんねー?」
「断る。」
「俺たちが穏便な内に財布出した方がいいと思うよー?ぎゃはははは!」
拳やら、バットやら、色々なものをちらつかす不良たちに小さくため息を吐き、青年はポケットの中から財布を取り出し不良たちの足下に投げた。
「ひょーぅ、サンキューだ…ぜ…?」
財布を拾い上げた不良の声が尻すぼみに疑問調に変わる。ついで、真っ赤な顔で怒り出した。
「てめぇ!なめてんじゃねーぞ!空じゃねーか!」
「ああ、そうだな。つい先程、お前らと似たような奴らに全部持ってかれたからな。」
青年は捨て鉢な気分になっていた。
まさか一日に二度も不良に絡まれるとは、さすがに自分でもツイてないと思った。
厄日だ。
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