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「何か金目のもん出せや!」
「ない。俺の持ち物はその財布のみだ。むしろ、今日どうやって家に帰るべきか悩んでいたぐらいだからな。」
「何だとー…!…じゃあ、優しい俺たちがお前を母親のところに帰してやるよ!一一母なる海ってところになぁ!」
不良たちは文無しのカモをサンドバッグにした挙げ句、川に流すことにしたようだ。
「断る。…と言ったところで変わらないのだろうな。」
「当たり前だろーがっ!!」
そう言って不良たちが集団で突っ込んできた。多勢に無勢にも程がある。
繰り出される拳を避けながらジリジリと後退して逃げ道を探っていると背後のフェンスに追い込まれた。
キシリ、と緩くたわんだフェンスの向こうは川だ。
「一一万事休すか。」
もう後ろには下がれない一一一一そう分かっていても尚、後ろに下がろうとして…
バキッ
「は?」「あ?」
不良たちの驚いたような顔、遠退く空、浮遊感。
一一青年は、川に落ちていっていた。どうやらフェンスが壊れていたらしい。
(一一…何のためのフェンスだよ。)
抵抗することもなく、青年の身体は急流の川に吸い込まれていった一一一一…。
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