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それに遭遇したら、決して嘘を吐いてはいけません。
それに遭遇したら、決してNOと言ってはいけません。
ルールさえ守れば、その怪異は全く無害な存在です。
ルールさえ守れば、その怪異は立ち去って行きます。
これは、そんなある名も無き怪異にまつわるお話です。
──────────
これは友達の友達から聞いた、本当にあったお話です。
その日、彼女は部活を終えて帰路についた所でした。
辺りは既に暗く、まとわりつくような嫌な雨が降っていたそうです。
傘を持っていなかった彼女はコンビニを探しましたが、山間部に近いこの辺りにはあまりそういった店はありません。
雨が酷くなる前に傘を買おうと、彼女は水飛沫をあげながら小走りで駆けていきます。
そんな中、彼女はある岐路を曲がった所でふと背後に誰かの気配を感じ、足を止めます。
しかも彼女は、やめておけばいいのに後ろを振り反ってしまいました。
そこに居たのは──
「おや、もしかして傘が無くてお困りですか?」
くたびれたスーツに、人の良さそうな笑顔の、中年男性が立っています。
右手には傘。
安っぽい半透明の傘を、彼はさしていました。
そして、左手にも傘。
同じく半透明の安傘ですが、もちろんこちらは畳んであります。
「もし傘をお持ちでないなら、この傘を差し上げましょう。そのままでは、風邪をひいてしまいますよ」
良いのですかと訪ねた彼女に対し、男はやはり笑顔で答えます。
「なに、見ての通りの安物なので、気に病む必要はありません。遠慮なさらず、どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
これは渡りに船、棚からぼた餅とばかりに、彼女は男の好意に甘える事にしました。
この場所からは、まだコンビニまではかなり距離があるのです。
傘を彼女に渡した男は、言葉を続けました。
「この辺りは、最近物騒な事件が起きているそうです。なんでも、嘘を吐く悪い子を拐っていくんだとか」
「犯人は閻魔様にでもなったつもりなんでしょうかねえ。舌でも抜かれちゃうんですか?」
聞いた事も無い珍事件の話に、彼女は思わず吹き出してしまいそうになりましたが、傘を譲ってもらった手前、一笑に付すような事はしませんでした。
すると、男は真剣な面持ちでこう言います。
「笑い事じゃあないですよ。既に何人かか連れ去られ、遺体で発見されているそうですから」
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