二人の場合

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 1.羊子1  いつもと同じ時間に鳴る電子アラームが、目を覚まさせた。未だ夢見心地な体を無理やり動かし、目覚まし時計に手を伸ばす。アラームが止まった。  意識が覚醒していくにつれ、昨日までの記憶がよみがえる。  ―――あぁ、また一日が始まったのか。  ベッドから降り、目を擦った。まだ眠気が体中にへばりついている。早々に身仕度をはじめる。身に染み着いたその仕草には迷いがない。寝間着を脱ぎ、高等学校の制服に着替える。学生鞄を手に取り二階の自室から一階にあるリビングへと降りていった。 「お早う」  リビングの扉を開けて言った。それに返ってくる言葉はなかった。窓からは朝日が差しているものの、誰も居ないリビングの雰囲気は暗いままだった。  部屋に掛けられている壁時計に目をやった。時刻は午前七時、登校するにはまだ余裕がある。  リモコンを手にしてテレビを点け、テーブルの隅に置いてあるバスケットから菓子パンを取り出す。椅子に腰をかけてパンを一口かじった。テレビ画面の中では、昨日起きた事故について報じられていた。飲酒運転の大型トラックが歩道に突っ込み、死傷者八名を出したという内容だった。 「どうして―――」    あの中に私が居なかったんだろう。そう呟きかけ、はっとして口をつぐむ。悪い癖がまた出てしまった。それをと一緒に呑み込むれように、無理やりパンにがっついた。  菓子パンを食べ終え、洗面所に向かう。顔を洗い歯を磨いた後、寝癖で少しだけ荒れた髪を整える。背中の半ばまで伸びた艶やかな黒い髪。これだけが自分の自慢だと自負している。今は亡き母親の唯一の忘れ形見である。  身仕度を終えると、時刻は七時四十五分。そろそろ家を出なければならない時間になる。  学生鞄を持ち、家を出た。 「行って来ます」  返ってくる言葉はなかった。  自転車を駆り、牧山羊子は学び舎へと向かった。これが彼女の一日の始まりだ。
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