バレンタインの話

2/5
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/478ページ
――2月14日、バレンタインデー。 女の子が男の子にチョコレートをあげて、きゃっきゃうふふ、なリア充バンザイなイベント。 爆発しろこのやろうがああぁぁぁぁ!!! と、心の叫びは置いておいて。 「そんなイベントなんだ。通りで町中甘い匂いがすると思ったよ」 「カルは、そんなイベントに参加したことはないのですか?」 「ない。興味もない。いい思い出もない」 「あ、……あぁ、なるほど」 どはっきりと言ってのけるこの少年。 名前はカル――一応勇者。 ちょっとだけ落胆してるのは、彼の相棒。 モッフヨンに転生しちゃっただけの聖剣ザドキエル。 通称エル。 一部にはウサキエルと呼ばれてたりする。 「それにしても、今年のバレンタインは普段のソレと全然違うような気がします」 「……どこが?」 教会屋根に座って見ている二人。 甘い香りのするクマが何かを探すようにうろつき、道端ではカップル(と思われる人々)がいちゃつき、一部の男性は涙を流す。 ――普通だろう? 「なんと言うんでしょう……」 「わからないなら、言わなくていい。煩いから黙って」 「ぅ……」 俯くエルから視線を逸らしたカルは、自分に向けられる気配にゾクリとした悪寒を感じた。 同時――猛スピードで風に乗り、飛んでくる物体。 鍛え抜かれた胴体視力で難なく避けると、それは遥か彼方へ飛んでいく。 ――爆発音と共に誰かの悲鳴らしきものが聞こえたのは、気のせいだろう。 †
/478ページ

最初のコメントを投稿しよう!