紅海

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広がっていた水溜まりの色は、麻衣の予想とは全く異なっていたのだ。 赤黒い多量の液体が足元を濡らしている。 その事実に、麻衣は凍り付いた。 硬直したまま、声もあげずに立ち尽くす。 しばらくして我に返ったように瞬きをすると、麻衣はゆっくりと顔をあげた。 「……っ!」 麻衣の口元がわななく。 しかし、そこから確かに発せられたはずの言葉は音を伴わない。 目の前に広がる惨状は余りに現実離れしており、脳がそれを受け入れる事を拒んだ。 湿った音を立てる、赤い滴。 僅かに視線を上にずらすとベット柵の間に挟まる、か細い腕が見えた。 真っ赤に染まるその指先から滴り落ちるものが、規則正しい水音を作りだしていく。 麻衣は混乱した頭で、ゆっくりとかぶりを振った。 ……これ以上、見ては行けない。
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