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部屋に戻り寝室の扉を静かに開けると、湊はおとなしく布団を鼻まで上げたまま嬉しそうに微笑み、おかえりと言った。
「薬屋さん、まだ開いてた?」
「ん。バッチリ。」
俺も微笑みを返しその枕元に近づき湊の顔色を確かめた。
随分良くなってきたみたいだ。
トレイのホットミルクも空になっていた。
よしよし。と満足してその場に胡座をかいて、しげしげとその漆黒の瞳を覗いた。
「なんか、製薬会社務めのあたしが
風邪薬切らしちゃうなんてね」
「…」
「っていうか、風邪引くとかってのもどうなんだろって…」
情けなさそうに言いながら弱く笑い、ゆっくりと上半身を起こした湊に俺はフッと笑みを零し、
「関係ねーでしょ。医者だって引くときゃ引くし。」
えぇ?そっかな…と顔をしかめる湊。
「でも、風邪引いたお医者さんて、あんまし見かけたことない…し」
他愛もないその湊の呟きをそのままそこに置き、俺はそれを確かめるためもう一度湊の額に掌をあてがう。
「…」
額に触れ、それから桃色の柔らかな頬を撫でながら何かを注意深く探る様子の俺を訝しみ、
「…ジロちゃん?」
どうかした?と小首を傾げた湊に。
「ん?…ああ、ごめんごめん。」
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