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俺と湊が入籍してからこっち、いつ頃子供を持つかって話を具体的にしたことはまだなかった。
ただ、二人とも子供は全然苦手じゃないし、増して自分たちの血を分けた子を授かるなら時期なんて厭わない。
来るに任せよう。
という共通認識は互いにあったつもりだ。
でも実際のところ。
新婚間もないと言っていいし、湊自身ついこの間まで学生で、社会に放り出されたばかりのそれこそまだ子供みたいなもので。
だから俺は湊の肩を抱き、声を改めて尋ねた。
「なあ。みなと。」
「は、はい。」
つられるように改まった返事を返す湊。
「先回りして言うのはズルいかもしれないけど。俺は男だし、もうこんな齢だしさ、…もし子供が出来てんなら、こんな嬉しいことはない、って思ってる。」
「ジロちゃん…」
グラリ揺れた黒い瞳が少し潤んだ。
何を言っていいのかわからず唇を噛み締める湊の火照った頬に、俺はもう一度優しく触れた。
「でもお前はそうじゃない。まだやりたい事だって…」
俺の言葉の皆まで聞き遂げず、ぱっと華やかに綻んだその表情に俺はハッとなった。
そのまま俺の首元に抱きついてきた湊は、深い溜息をついた。
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