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「…じゃ、そこ座って。…話してみな?」
待合のスツールのひとつを顎で示しそう促すと、
「い、いいんですか!?ジロー先生なんかお仕事してたんじゃないんですか?」
と氷室カナは声を裏返して尋ねてきた。
「うん。いいよ。別に急ぐような仕事じゃないし。…」
ニコリと返すと、彼女は嬉しそうに頬を緩め、ストンと腰を下ろした。
そして緊張の面持ちでゆっくりと一度深呼吸をしてから、同様に斜め向かいのスツールに腰掛けた俺をゆっくりと見てきた。
「…あのね?」
茹蛸のようにした顔の、鼻筋に皺を刻んでから。
「先生のこと、好きになっちゃった・・・みたぃ。」
尻すぼみに小さくなる声。
笑みをかき消し、黙ったまま彼女を見据えた。
「……」
「………」
「…………」
長引く沈黙に、緊張で氷室カナの呼吸が上がって行くのが分かった。
やがて耐え切れなくなったのか、俺からつっと目を逸らすと、
「だ、黙ってないで、…何か言って下さいよお…」
と根を上げてきた。
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