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「ん。もちろん不倫なんてサイテーだよ。…でも安心して?俺もみなともそういう部類の人間じゃないからさ。…。」
と俺はニッと笑い、氷室カナの目の前に左の掌を差し出した。
そこに輝く銀色のリングを見た彼女は言葉を失い、見開いた目を数回瞬かせた。
その弾みでパタパタと零れ落ちた涙の粒は、透明な“鱗”のようにさえ見えた。
「…え…何で…?」
ショックなのか、それとも少し安堵したのか分からないが、掠れた声でそう言った氷室カナ。
「…」
「だって、ジロー先生いつもは指輪なんて…。」
うん。と俺は神妙顔に戻って頷いた。
「一応正当な理由はあるんだ。…だけど俺も休診日しか指輪できないのは、すこぶる不本意なんだぜ?」
「…」
「結果的にこうやってキミを誤解させたのも俺だし。そのせいで大事な奥さん煩わしちまったしな。…」
あ、…と表情を強張らせた氷室カナに、俺は慌てて
「キミを責めてるんじゃないぜ?」
と優しく投げた。
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