21人が本棚に入れています
本棚に追加
「この世界には、悪人と善人と二種類がいる。……この言葉を聞いて君はどう思う?」
静寂な電車の中に一人の男の声が響く。電車が静寂な理由は簡単だ、いまこの電車には車掌と、サングラスにオールバックの男と、一般の大学生しか乗っていない。
三人しか居ない理由も簡単。田舎行きの電車だからである。別段珍しい光景ではない。
「言葉通り、世界には善人と悪人しかいないだろ?」
「そうか、ならこれはどうだ?例えば道で困っている婆さんを助けた人は傍から見れば善人か?」
「え?そりゃまぁ、善人だな」
「じゃ、その婆さんをただただ傍観していた人は悪人か?」
「ん?んー、悪人ではないだろ、必ず助けなければいけない訳ではないし」
「そうか、なら善人と悪人の境目はなんだろうか?他人に迷惑をかけたのなら悪人か?他人の迷惑にならなかったら善人か?」
サングラスでオールバックの男は、腕組みをして考える。
「善人と悪人の境目ねぇ、法を犯した奴が悪人じゃないか?……多分」
一般の大学生は首を傾げて答えた。
「法か、法とはまた厄介だな。法で善悪が決まるのならば皮肉だな」
男は酷く落胆したかの様に肩を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!