第1章 金色の少女・後編

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ーー朝、俺は未だに痛むお腹を摩りながら美琴とこの桜道を歩く。 …つい最近までは夏希と二人で歩いた道だ。 夏希の事は多分、「病気の治療が長引くから」と、千冬から学校に連絡がいってるはずだ。 精神的なと言う部分は伏せて、だが。 「あーあ…何が悲しくてこんな発情期の駄犬と学校に向かわなきゃならないのかしら?」 「…だから、それは誤解って説明しただろ?」 「知らないわよ、そんなの。あーあ、やだやだ。」 いつもの、不機嫌な表情を浮かべた美琴が、やれやれと首を振る。 そんな仕草からは、昨日までの辛さは全く感じられない。 「…しまいにはいじけるぞ…?」 「やだ、キモイ。」 「ううう…。」 本当に、いつも通りの美琴だ。 二人で歩いていると、あの日、信玄を拾った公園が見えてきた。 「……。」 「どうした?」 美琴は公園の前で立ち止まる。 怪訝に思い、俺も立ち止まって振り返った。 その時ふっ…と、春の暖かい風が美琴の綺麗な金色を揺らす。 「…あんたと、初めて話したのってここだったわね。」 「……そうだな。」 「正直、まだ一週間ちょっとの付き合いなのに、もうずっと一緒に居る気がするわ。」 「俺もだ。」 俺の返事を聞いてか、それとも元からそう動き始めたのか分からないけど。 美琴は公園から俺に顔を向けた。 「…ありがとう。」 「何だよ、急に?」 「別に。ただ、昨日あんたに助けてもらったお礼言ってなかったなって。」 「……まぁ、実際助けたのは俺じゃなくて春姉ぇなんだけど。」 「いいの、あんたで。」 「何で?」 「ーーアンタが、助けてくれたの。……あたしの心を。」 「…へ?」 意図をうまく把握できず、俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。 けれど、美琴は特に気にした風も無く、再び歩き出した。
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