第1章 金色の少女・後編

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俺の前を歩く美琴は、振り返らずに小さく呟く。 だから、微かにしか聞こえなかった。 「…あたしが今こうしてられるのも、崩れそうな心を守れたのも……全部あんたのお陰。」 「…ん?何て??」 「何でもない。ほら、早くしなさい?遅刻するでしょ?」 「あ……おう!」 催促する美琴に、慌てて着いて行く。 薄くなった桜が、目の前でまた、ひとひら、ひとひらと、散りゆくのが見えた。 実は、まだ全ては終わってない。 老人の話の通り、美琴の炎は未だ黒に近い灰色で、少しずつその色を強めている。 「あのさ、俺が話した老人…の事なんだけど、探しに行かないか?」 「んー。その内また現れるだろうし、今はまだいいんじゃない?」 「何で?」 「それは…多分あたし、そのおじいちゃんが言った言葉の意味が分かるから。」 「は?…分かるなら教えてくれよ。」 「つまりね、あんたがあたしの隣りに居たらいいの!」 極めて明るい声色で、美琴は歩みを止めないまま、顔だけをこちらに向ける。 すると、横断歩道を渡る突然、横から車が来るのが見えた。 「あぶねえ!」 咄嗟に美琴を引き寄せ、抱きしめる。 トラックは目の前を通り過ぎ、俺は腕の中に収まる美琴美琴を睨んだ。 「ちゃんと、前みろよバカ!!」 「…ほら、大丈夫だった。」 「はぁ?」 「トラックから、守れたでしょ?」 「おま、わかってて…!?」 腕の中で微笑む美琴に唖然とする。 トラックが来るのを分かっていながら進もうとしたのだ。 信じられない。 「つまり、こういうこと!」 美琴は、俺を無理矢理引き剥がすと、小走りで横断歩道を渡る。 慌てて俺が追いかけると、美琴は渡り切ったところで俺を待っていた。 腰に手を当て、極めて傲岸不遜な態度で。 「ずっと、あたしを守りなさい、あたしのそばで!!」 「……おう。」 そして俺たちは笑い合い、学校へと歩みを進めていく。 新しい週が、始まった。
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