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「お茶、ありがとう」
携帯を閉じてテーブルに置いた俺は、きっかけを待っているであろう幸己に話しかけた。
すると案の定、せきを切ったように幸己が喋りだす。
「何なに、今の電話! もしかしてネックレスの子?」
「……さぁね」
「そうなんや~。なんや順調そうやんか」
「さぁねぇ」
「またまたぁ~。兄貴、顔笑ってんで」
子供みたいにイタズラな笑みを浮かべた幸己が、茶化すように肘で小突いてくる。
それに対してわざと否定も肯定もしない俺は、熱いお茶をゆっくりと流し込むように飲み干した。
ちょっとだけ酔いが覚めた気がするのは、幸己の胡散臭い話の効果だろうか。
例にならって湯飲みを片付けてくれた幸己の後ろ姿を横目に、改めてリビングを見回してみる。
窓の大きさに対して寸足らずなカーテン、10年前から変わらないカーペット、親父だけがいない家族写真。
どこかちぐはぐでおかしな家。
それでもここが、何はともあれ俺の家なんや。
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