4人が本棚に入れています
本棚に追加
約束の時間。
何も知らない彼が私の家を訪れた。
何も知らない顔で、私に会えて嬉しそうに笑う。
そして、いつもと同じように両手を広げた。
私のポケットに鋭利な物体が入っているとは知らずに。
「柚李…おいで」
私は彼に言われるまま近づき、胸の中に吸い寄せられるように抱きしめられた。
最後の温もりを感じる一時。
サヨウナラ…
コレデ永遠ニ私ノ物ダネ
静かに彼の胸の中で笑い、銀色に光る物体を腹部へ突き刺した。
異物は何も止められず、すんなりと体の中へと埋め込まれていく。
あ…れ?
突然感じるはずのない、自分の腹部への違和感。
暖かい液が腹部から溢れだし下肢へと流れていくのが分かる。
離れて下を見ると彼に刺したはずの異物が自分の中に埋まっていた。
私の体を深紅に染めていく。
なんで?
彼の方を見ると彼も不思議そうに自分の中にある異物を見ており、私ももう一度自分の異物を見る。
あぁ、そうか…同じだったんだ。
彼の気持ちが分かり、驚きが嬉しさに変わる。
私の気持ちを彼も理解したらしく、表情が柔らかくなった。
最初のコメントを投稿しよう!