あやかし

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とても、とても深い森の中。 深緑の木々たちを縫うように、陽の光が射す。 樹齢の長い大樹の根の間で、一人の少年が目を覚ました。 「………っ……。」 どうやら少し頭をぶつけたようで、意識がはっきりしない。 「……ここは………」 少年は辺りを見渡す。 「………俺は………」 頭の中を整理しようとした瞬間、少年の顔を目がけてナイフが飛んできた。 少年は驚きはしたが、軽がるとそれをかわし、ナイフは後ろの大樹に刺さった。 少年は急いでその場を離れた。 「何なんだ…一体…」 しばらく走ると、とても幻想的な美しい湖が見えた。 大樹に囲まれた美しい小さな湖の畔に、美しい女の姿が在った。 女の肌は透き通るように白く、長い髪は黒く艶やかに輝く。 女は少し俯き、瞳には薄らと涙を浮かべている。 その姿はとても儚げで、森の自然たちも女を優しく見守っているようだ。 「………緋月…。そろそろ…。」 女を緋月(ヒヅキ)と呼んだのは、美しい男だ。 男は音も無く、どこからともなく現れた。 「……うん。解ってる、彩園。」 緋月は一度目を瞑り、再度目蓋を開いた瞬間に強い表情へと変えた。 先程の女とは別人のように意志の強い瞳をしていた。 それを見ていた少年はおもわず緋月に見惚れた。 彩園(サイオン)は何者かの気配を感じて、少年が居る方向に向かって声をかけた。 「何者だ?おとなしく姿を現せば手荒な真似はしない。」 しかし、彩園から放たれるのは明らかな敵意であった。 少年はこの世の者ではないような、得体の知れない気を感じて逃げ出した。 「豊後!」 「ちっ…面倒くせぇなぁ…。」 彩園が一言叫ぶと、木の上から新たに男が現われて男は面倒臭そうに少年を追った。 「彩園……。」 「大丈夫だ。行こう。」
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