-ひとつ、双つ-

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久嗣は34年間の人生の中で、職業柄これと似たような光景を嫌というほど見てきた。 後味の悪いものばかりだったが、それで飯を食べている自分にもほとほと呆れるものだ。 「そういえば…」 いつものように弟子の後始末をぼーっと眺めていると、背後からよく似た声が問いかけてくる。 「久嗣や、仏さんの親族はどこ行った」 振り向けば、同じ顔がもうひとつ。 「ん?あぁ、『あんなやつ、殺すなりなんなりしてください』やと。 うちが道用意したったさかい、今ごろは実家へ直行の汽車の中やろな」 肩を竦めて答えれば、"双子"の美しい顔が嗜虐に満ち溢れた笑みでくしゃりと歪んだ。 そして部屋から廊下まで、久嗣を挟んで楽しそうな笑い声がクツクツ響いた。 「よっぽど酒に溺れていたんだろうなぁ」 「可哀想に。自分の家族にまで嫌われて」 「まあ仕方なかろうな。あの性癖じゃ、奥さんも奥さんで大変だわ。ふふっ」 「うふふっ。見たかい?私を殺そうとしていたあの目。ありゃぁ最早人間のすることじゃなかろうて」 「ああ見た見た。下までいきり立たせてのぉ。ふははっ」 至極嬉しそうに同じ顔が双つ笑う。 見目麗しいことこの上ない光景だが、語り合っている内容がどうにも頂けない。
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