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気づけば、視界は青に埋めつくされていた。
下は青。上も青。全てが青。僅かな白。
とゆうか、現在地は絶賛海の上だった。
「ほぇ?」
僅かな浮遊感のあと、体は重力に従って下の青に引き寄せられていく。
高度は遠近感がわからないので推定だがせいぜいが20m――って。
「早速海の上かよおおぉぉぉぉおおっっっ!!!」
下方に加速して行く身体、眼前に勢いよく迫ってくる青い壁。
抵抗する暇もなく、体中にとんでもない衝撃を感じつつ。俺の身体は真っ直ぐ勢いよく海に落ちた。
なんとか上に、水上に。バタバタと手足をもがくように動かし浮上しようと泳ごうとする。
そこで気付いた。気づいてしまった。
足のつかない水中。強い水流に逆らえず、ただ流される無力な身体。
――俺、そういえば泳げねーじゃん。
そう一瞬、油断した隙に半開きの口から空気がぼこりと一気に漏れ出す。
口から漏れた気泡は小さな幾つもの泡に分かれ、ゆらゆら揺れる光の帯が垂れる海面へと消えていく。
その光景はとても綺麗で幻想的で。苦しい状況であるにも関わらず、思わず見とれてしまった。
海面に映る、鳥以上に大きな何十mはあろうかという影のシルエットに、ここが異世界であるという確信を持ちつつ。
そして視界が次第に青から黒に変わっていき――
――俺の意識はそこで途切れた。
――――――
「私は異界からの使者。突然で申し訳ありませんが、力を貸して頂けないでしょうか」
学校からのとある帰り道。珍しく英雄と二人だけの帰路に、そいつは現れた。
自分の異世界の使者と名乗る胡散臭い俺たちと同じく15,6歳ほどの……おそらく少女。
おそらくというのは声色だけから判断した結果で、対象は頭からすっぽりと深く白いフード付きローブを被っている。
やけに人気のなくなった閑静な住宅街。その通りの中央で夕日をバックにこちらの行く手を阻むように一人立ち、ただならぬ雰囲気を放っている。表情は伺えない。
それはただそこにいるだけで謎の異物感を覚える、とても異様な光景だった。
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