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その異質なプレッシャーに押され混乱し身構えるなか、俺は内心少しだけ感心していた。
いやまさか割と非凡な展開を日夜繰り広げている親友の氷路英雄だが、まさかラブコメ推理パニックホラーSFと踏破してきた体験ジャンルの手が……まさかとうとう異世界ファンタジーにまで届くとは、と。
そう。俺もあまりに高頻度かつ近くで非日常を見続けたために、感覚がある種麻痺していたのである。
かと言って、春休みの最中に宇宙人と友達になって地球の危機を救ってきたのだなどと語る様を見れば致し方ないと思っていただきたい。
とりあえずここは祝福が先だろう。と、隣の警戒状態にある緊張した肩に手を置いた。
「おめでとう親友。とうとう行くとこまで行ったな。幼馴染として鼻が高いよ」
「へ、どこから来た話なのそれ。あとなんで引け腰なの」
「気のせいさ」
「なんで僕の肩を前に押し出すの」
「気のせいさ!」
「気のせいではないよね!?」
俺は事あるごとに面倒事の渦中に現れるお前に巻き込まれたくないだけだ。
「異界の選ばれし勇者様。是非とも我らに力をお貸し下さいませ……」
そう言い膝を折り頭を下げる逆光のシルエット。
そういえばなんでこの人日本語喋ってるんだろう。こういうとこなんか色々杜撰よね。なんて少し現実逃避し精神のバランスを保ちつつ、こちらに目配せしてきた英雄に会釈し、会話をするよう催促する。ちょっと嫌な顔すんな。こういう事態は慣れてる方だろうがお前。
「貴方は、一体誰ですか? お困りでしたら、僕達程度なら力を貸しますが……」
お前すごいな。……いやお前スゴいな!
その親友の言葉に本当に素直に感心する。こんな得体のしれない人物が目の前に唐突に現れて、簡単にそれが口に出せることに。
これが、俺が昔から憧れたヒーローの姿なのだと。改めて感動した。
でも俺を巻き込むんじゃない。それとこれとは話が別だ。
「おいおい、なんで複数形なんだ親友よ」
「人数が増えたら、もしアレでも生存率が高まるでしょ?」
「ケロッとした顔で言ってんじゃねぇ!」
お前だって多少は危険な目に遭うこと予想できてんじゃねえかふざけんな!?
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