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「何処へ行く」
我に返ると暴れて俺から抜け出そうとしたカインだったが、無駄だとわかるとあっさり抵抗をやめた。
「俺の部屋」
「なぜ」
「面白そうだから」
カインがどういう経緯でどうやって“こう”なったのか興味がわいた。
それにしても、こうしていると昔を思い出す。
昔──クルメに拾われた時のことを。
今は立場は逆で状況も違うがクルメも“面白いモノ見つけた”と言って俺を持ち帰った。
暫く見てたけど、やっぱ面白い。お前の体、どうなってんだ?と。
そう言われたのは人間から逃げて、逃げて。疲れ果て倒れた時だった。
その時は憎しみ、殺意、恐怖、諦めといった感情しか持ち合わせてなく、クルメに持ち帰られたことに関して何も思うことはなかったが、今“生きて”いるのはクルメのお陰なのだろう。
感謝の念など覚えないが。
やったことは人間と同じ、若しくはもっと酷かったのだから。
カインを連れて来たのは纏う空気が昔の俺と似ていたから、というのもあるかもしれない。
それと、俺“自身”に向けられた憎しみへの興味。
そんな意味のこもった“面白そう”への返事はなく、後はひたすらに無言が続く。
そして、薄ぼんやりとした生ぬるい夜の中、イグサの匂い香る部屋に辿り着いた時カインからの敵意は感じなくなっていた。
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