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蝉が鳴く8月。
その蝉がアブラゼミかミンミンゼミかなんて知りもしないし、興味もない。
夏の暑さを助長するようなこの音に興味を持てるはずがない。
なぜなら、僕は慧(アキラ)君のように何でも知りたいとは思わないから。
そう考えながら慧君に目を向けた。
「悠(ヒサシ)ー!お前もこっちこいよ!」
慧君の手前に座る慶太君が、その体に見合った大きな声を出していた。
その大きな体から生えた大きな腕が、僕にこちらへ来るようにと伝えるべく、忙しく動いている。
汗だくの僕が木陰で涼もうと思っているのは見ればわかるはずなのに、どうして慶太君は笑顔を浮かべながら、僕を日向におびき出そうとするのだろう。
僕としては、皆がこっちに来た方が良いと思うんだけど。
「慧君から面白い話があるんだってー!」
僕が口を開くより早く、彩奈夏(サナカ)ちゃんが口を開いた。
いつもこうやって僕を急かすのが彩奈夏ちゃんだ。
前髪を結んでおデコを出した髪型。そこからなんとなくわかるように、明るさを持った女の子。
彼女は僕が転校して来て一年も経たないうちに、僕を急かすという役割を担っていた。
初めは、それは彩奈夏ちゃんがせっかちだからだと思っていた。
だけど本当はそうじゃなくて、彩奈夏ちゃんは僕を仲間外れにしないようにしてくれているんだ。
と、最近はそう思うようにしている。
それでも、僕はゆっくりするのが好きだから、急かされるとちょっとだけ困る。
「悠君、急がなくても良いですよ。話はいつだってできますから」
そう言って眼鏡の位置を直す慧君は、僕の気持ちを理解しているのか、いつだって僕を急かすことはない。
でも、本当は慧君はいつも僕の気持ちをわかっていないんだ。
僕は立ち上がって走り出す。
僕も、彩奈夏ちゃんや慶太君のように面白い話が聞きたい。
僕が急ぐ時だってあるんだ。
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