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「流石は春乃ちゃんです。気づいたみたいですね」
そう満足気に頷く慧君を見ても、僕には何のことだかわからなかった。
「どういうことだよ!何も不思議じゃないじゃねーか!」
珍しく静かに話を聞いていた慶太君が、痺れを切らしたのか、いつものように大きな声を出した。
「そうですか。それなら、慶太君に質問です」
そう言って、慧君は慶太君をじっと見つめた。
「……誰がこの伝説を知っているのですか?」
「そりゃあ、それを見た奴に決まってんだろ!」
慶太君の言うことは正しい。だって、河童が引きずり込むところを見てないと、河童を見たら引きずり込まれる、なんて誰かに言うことは出来ないじゃないか。
……あれ?
でも、それを見た人も引きずり込まれる訳だから……
「……引きずり込まれるんだから、それを見た人なんていないんだ」
そんな言葉が自然と口から出ていた。
そして、慶太君と彩奈夏ちゃんは僕を見た。すぐに言葉の意味に気づいたみたいで、驚いた表情で慧君を見た。
「でも、それじゃあ、河童伝説って……何なのよ?」
そう呟いた彩奈夏ちゃんに慧君が笑いかける。
「ただの作り話かもしれません。ですが、そうだとしたら……何故、話を作ってまでその川から人を遠ざけるのでしょうか」
慧君はそう言って、黙り込んでしまった。答えを考えているのかもしれない。
僕も何を言ったら良いのかがわからなくなって、口を開くことはできなかった。
「よし!」
少しの沈黙の後、慶太君がまた大きな声を出した。
何かを思いついたのか、いつもの元気な表情に戻っている。
「答えは近くにあるじゃねーか!」
力強くそう言った慶太君は笑顔を浮かべた。
「川に行けばいいんだよ!」
その言葉に驚いたのは僕だけではなく、慧君も春乃ちゃんも同じようで、二人ともハトが豆鉄砲をくらったような顔をしている。
そんな二人を見て少し笑ってしまったけど、二人もまた同じように笑っていた。
たぶん僕も同じ顔をしていたのだろう。
言い出したら慶太君は止まらない。だから、僕達は夏休みのうちに川へ行こうと約束した。
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