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僕は珍しく朝早く起きていた。
今日は約束通り、皆と川に行く日だ。
だから僕は昨日のうちに、大人達に河童の話を聞いて回った。
その中の一つに慧君の話とは違うものがあった。
あの神社の神主さんの話だ。
神主さんによると、河童にキュウリを捧げると願いが叶う、という。
それがキュウリ一本で一つの願いが叶う、というのだからとても驚いた。
神主さんも、こんなに安い値段で願いが叶うなんて不思議だね、と笑っていた。
僕も本当に面白い話だと思う。でも、これもきっと作り話なんだ。
河童なんていない。そう言う大人が一番多くて、僕も段々とそう思うようになっていた。
たぶん、いると思っていたら怖くて川に行けないから、皆もいないと考えているに違いない。
濡れても大丈夫な洋服に着替えて、僕は待ち合わせ場所に向かう。
家を出てから近くの商店街を通り抜けて、少し歩けばもう山の中。
こんなに近くに山があるなんて、前に住んでいた場所では考えられなかった。
僕の住むこの町は簡単に言うと田舎なんだろうな、と思う。
大きなビルや高層マンションもないし、近くには山も川もある。
山も川も前に住んでいた場所になかったから、初めは嬉しくてワクワクしていた。
でも、今はなんとも思っていないことを考えると、僕は何に心を踊らせていたんだろう。とても不思議だ。
歩きながらそんなことを考えていたら、目の前には箒を手に掃除をしている神主さんがいる。
毎日来ていたから足が勝手に向かっていたみたいで、気づけば僕はいつもの神社に着いていた。
だけど、周りに皆はいない。
そうか、今日はここじゃないんだった。
そう、今日は神社じゃなくて川に行くんだ。
河童伝説のある川、その川に掛かっている小さな橋が僕達の待ち合わせ場所。
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