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橋には既に皆が集まっていた。
いつもより早く家を出たけど、寄り道をしたからなのか、僕が一番最後になってしまった。
結局いつもと変わらない。
「遅れてごめん」
キュウリを持って謝る僕の姿は、皆からどう見えるのだろう。
「大丈夫ですよ。僕達も今来たところですから」
そう言って、いつも許してくれる慧君。もちろん他の皆も笑顔を浮かべて許してくれる。
「ありがとう」
だけど、そうされるといつも、僕と皆の間に薄っすらとした壁が見えてしまう。
今日もやっぱりそんな気がした。
「さっそく、川に降りるぞ!」
元気にそう言った慶太君は、橋のそばにある小さな坂を降り出した。
それが当たり前かのように、慧君も彩奈夏ちゃんも続いた。
その時、何に対してかわからないけど、僕は確かに違和感を覚えた。
「悠君どうしたの?」
声と一緒に、春乃ちゃんの可愛い顔が僕の顔を覗き込んできた。
「な、なんでもないよ」
少し慌てて笑顔を取り繕った僕の手を春乃ちゃんが握った。
「それじゃあ、一緒に行こ。ね?」
あまりに急な出来事に僕は固まる。頭も口も上手く働かず、頷くことしかできなかった。
そんなぎこちない僕の返しに、笑顔を向けてくれる春乃ちゃん。
これは反則ってやつだと思う。
ようやく働いた頭に浮かんだそんな言葉。
そして単純だけど、転校して来て良かったと、初めて思った。
手に持ったキュウリの冷たさもあってか、握られた手に伝わる春乃ちゃんの体温は、夏の陽射しでもできないのに、僕の心を暖かくしてくれた。
僕は坂を降りながら確かにそう感じていた。
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