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 *  それはゴールデンウィーク明けのことだった。 「じゃ、宇佐美さん、どうぞ」  黒縁メガネの文学青年、というとっつきにくい国語教師の担任、水谷先生の指示で教室に入ってきたのは、女の子だった。  長い黒髪が、彼女の歩に合わせて怯えるように揺れる。  俯いた横顔は消えてしまうのではと不安になるほど白く、弱々しい輪郭で。  まるで人形のように整った、静かな雰囲気の少女だった。  教室は自然と静まり返っていた。 「転校生の、宇佐美真帆さんです。宇佐美さん、自己紹介を」  宇佐美真帆と呼ばれた彼女が、一瞬その瞳に嫌悪感のようなものを表したことにぼくは気づいた。  宇佐美は長いまつげをわずかに震わせると、俯いたまま小さく呟いた。 「……宇佐美です」  水谷先生はそれ以上言葉を紡がない宇佐美に顔をしかめたが、明るい口調で拍手を生徒に要求した。  パラパラと気のない拍手が起こる中、ぼくは宇佐美から目を離せずにいた。  彼女の目は、どこか虚ろだった。
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