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大河はぼくの弁当を覗き込むと、頬を緩ませる。
「うわ、かわいいなあ。うまそうだなあ。ミッキー、芽衣子ちゃん俺にくれよ」
「お前には絶対にやらん。それとミッキー言うな」
勝手に箸をのばす大河から弁当を守りながら睨んでやると、彼は唇をとがらせて自分の弁当を開ける。
「ちぇっ、俺の弁当見ろよ。この適当さ。愛情の欠片もねえ」
大河がため息をつくのも無理はなく、彼の弁当は半分に白飯、もう半分に焼いた肉が入っているというだけの、なんとも味気ないものだった。
あの豪快な海山のおばちゃんらしい。それでも、
「贅沢なやつ。どうせその肉もグラム千円以上のいいやつなんだろ。ママに感謝しなさい」
男子高校生ならば肉が食えればなんでも大喜びだ。それも高級品をこれほど贅沢になど、一般家庭では考えられない。大河の家はかなりの金持ちなのだ。
「ちょっと交換してよ」
「やだ。芽衣子の愛は大河なんかに分けてやるほど安くないの。彼女でもつくれよ」
そう、肉がどれほど価値あるものだといっても、愛の詰まった弁当には到底かなわないのだ。
「……」
大河はぼくの弁当に一瞥をくれると、拗ねたようにがつがつと自分の弁当を食べ始めた。なぜかその頬が少し赤くなっていたが、特に気にすることでもない。
ぼくは自分の弁当に向き直り、かわいらしいタコさんウィンナーを掴む。
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