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 空を背に、風に舞う、長くきららかな黒髪。  小柄で華奢な背中だった。振り返ったその両目は、真っ赤に染まっていて。  彼女は驚いて大きく目を見開き、目元の湿り気を制服の袖で乱暴にぬぐった。  宇佐美真帆だった。  ぼくは彼女の涙を見て、ほっとしていた。  実は朝からずっと宇佐美のことを見ていたのだ。無意識のうちに。  恐る恐るという様子で近づいてくるクラスメイト達に対しての突き放すような態度や、その無表情で、生気のない静かな雰囲気に、ぼくは人知れず不安を感じていた。  だから、その涙に人間らしい彼女の熱を感じ、安心していた。それゆえ、話しかけることができたのだろう。 「えっと、宇佐美さん、だよね? ぼく、同じ二組なんだけど」  宇佐美は赤い目で無表情に、だがまっすぐぼくを見ていた。  その目の奥の不思議な色に、また不安が少し湧き上がる。 「あの、その……どうかしたの?」  次に発する言葉に困り、ぼくはついそう尋ねてしまった。そして次の瞬間にはもう後悔していた。  転校初日からまわりを遠ざけていた宇佐美が、初対面のぼくからのそんなプライベートな質問に答えるはずがないじゃないか。  二人の間に気まずい沈黙が落ちる。五月の陽射しは暑いのだが、風はまだ少し冷たい。
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