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 ああ、最近ため息がくせになっている。幸せが離れていく気が。 「そんなため息ばっかりついてると幸せが離れてくぞ」  ……大河と同じことを考えていた自分を憎んだ。そしてやつの楽しげな顔を睨む。  大河は阿呆なくせに、なかなか整った顔立ちをしている。  さっきからしきりに鼻の横に最近できたニキビを気にしているが、それも快活な少年らしさを引き出しているように思える。  なにげにサッカー部のレギュラーだったりして運動神経もいいし、性格もあっけらかんとしていて裏表のない、いいやつだ。  人付き合いが苦手なぼくの、気の置けない唯一の友達といえるだろう。だが、 「でさ、宿題、みせて」  ほらまた、人懐っこい笑顔を浮かべて頭の上で手を合わせ、いつものお願いをしてくる。  こいつはずっとこうなのだ。困ったことなどがあればいつも、この捨てられた子犬のような目ですりよってくる。  ぼくは最近、こいつの教育を間違えた、と自責の念にかられることが多い。  中学一年生の時に鈴鹿市へ引っ越してきたぼくに、気安げに話しかけてくれた大河には感謝している。  引っ込み思案だったぼくは、よく宿題をうつさせてくれと大げさに拝みにくる大河がうれしかった。
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