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「お願いいたします」
アーツベルトが膝を折った。
正座になり、額を床に擦り付ける勢いで頭を下げる。
千里は大いに動揺した。
こんな風に年上の人に土下座されるとは思ってもみなかった。
「シンシア様を元に戻したいんです。私は彼女の騎士の癖に何も出来ない。貴女の力をお借りしたい。勿論、お礼はいたします。私に出来る事ならばなんでもいたしましょう。ですからどうか……」
「アーツベルト止めて」
シンシアはアーツベルトの腕を引っ張った。
人形の力では当然動かせるわけないが、彼の意識をそちらに向かせるのには充分だった。
「アーツベルトは悪くない。私はこのままでも大丈夫。だからそんな泣きそうにならないで」
「シンシア様」
アイスブルーの瞳に涙が滲んだ。
それを見てアーツベルトの顔が歪む。
脅されるよりもこれは効いた。
断りきれない。
「分かりました。お手伝いします。だからどうか泣かないで」
千里は膝を折るとシンシアの頬を伝う涙を指の背で拭いた。
感覚的に由鶴を泣かせた気分だ。
「私に何が出来るか分からないけど、きっと貴女をもとに戻してあげるね」
元気を分けて上げたくて明るく笑った。
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