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いつもシンシアの腕の中には、青みがかった黒髪と蒼氷色の瞳を持った人形があった。
ふわりと浮く柔らかな髪と桜色の唇。
ひらひらのドレスを着せた人形は瞳の色以外シンシアに似せてあった。
「シンシア様」
彼女の御付・護衛役である青年アーツベルトは、シンシアが閉じこもった部屋の扉を叩いた。
少し長くて鬱陶しい前髪の奧に隠れる紫の瞳が剣呑に光る。
ここに閉じこもって三時間。
いくら部屋の中とはいえ、護衛のアーツベルトが彼女の近くにいれない事が腹立たしかった。
「いつまで閉じこもっているつもりです」
怒鳴りはしないが、あからさまに怒った声色で問いかける。
返事は一向に返ってこない。
舌打ちをしたアーツベルトは、一度だけ強く扉を叩きつけてから、額をその扉にそっと当てて目を閉じた。
「―――――シンシア様…」
甘く優しい声で名前を呼んだ。
他の者にはけして見せない酔った顔をして、扉の奥のシンシアを思い浮かべた。
自分の半分くらいしか背丈のない小さなお嬢様。
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