すれ違い

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「あの…あたし……戻るっ」 ――あたしなんかで、いいのかな? いつも思ってた疑問と不安が一気に増してくる。 「香川っ……!」 黒田の呼ぶ声が聞こえた。 いつもなら名前を呼ばれるだけで嬉しくて仕方がないのに……今は全然違う。 クレープを片手に、あたしは体育館のドアを抜け出した。 走って、走って…、 でもあたしは、足が速くなんかなくて。 「…待てって」 体育館を出てすぐ黒田に捕まってしまった。 「…クレープ……持って来てくれたんだろ」 「…っ」 「楽しみに…してたんだけど…」 「…最初からもらえるって思ったんだ」 「っ…お前な…っ」 図星なのか、引きつった笑いを浮かべる黒田。 「冗談っ あたしの方が、あげるの楽しみにしてた…」 恥ずかしくて目は合わせられなかったけど、言えた。 「…バーカ」 「ならあげない」 「うそです下さい」 「ははっ」 不安が嘘のように消えてゆく。 黒田がいつだって素直だから。 あたしはすぐ自分に自信がもてるんだ。 不安なんてすぐ吹き飛ばしてくれるんだ。 「…おいし?」 「んー、まぁ」 「まぁって何よ!」 ほら、いつも通り。 …あたしたちはこうでなきゃおかしいよね。
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