愛の結晶

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私が婦人の屋敷に連れて来られたのは13歳の冬だった。枯れた蔓薔薇が絡み付く格子の門から煉瓦造りの屋敷が見えた。びっしり埋め込まれた黒塗りの煉瓦が夥しい数の目を連想させ、それらがこぞってこちらをのぞき見ているようで恐ろしかった。 萎びた人参のように皺くちゃな女中に、婦人の部屋に案内された。部屋は薄いカーテンが幾重にも張り巡らされ暗かった。まるで蜘蛛の巣のようだ。その奥の天蓋付きのベッドに、30代半ばの女性が肉食獣のように横たわっていた。硬質な黒い繊維で織られたドレスに婦人の白い柔肌が映える。婦人の頭には一本も毛が生えていない。真珠のようにつるりとしている。 この婦人が、私を金貨一枚で買ったのである。用途はまだ分からない。
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