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「名譚亭」へようこそ!
M県の国道沿いのどこかの山間にあるという噂の、名譚亭を知っているか?
え? 知らない? おいおい、お前ホントに地元県民かよ。この県じゃとかく有名だぜ?
どんな風に有名かって? そうだなぁ……。
よし、俺が体験したことで良ければ話すぜ。
その日の朝。俺は何の気なしに車を走らせていたんだ。
特に意味はない。ただ単にお気に入りのデリカを走らせたかっただけかもしれない。ただその日、俺は本当に『なんとなく』車を走らせていたんだ。
昼過ぎくらいだったか。俺は腹が減って来たんだ。近くには自動販売機なんてないし、もちろんコンビニも近くにない。『なんとなく』山道を走っていたんだからな。
はてさてどうしたものかと考えてたら行く先に一軒のログハウス風の店があったんだ。そこにはほら、廃材の木を大きく斜めに切ったような看板でさ、でかでかと『名譚亭』って書かれてたんだ。黒字で。でかでかと。
そこの店には一応駐車場もあったし、俺はそこで飯を食おうと思ったんだ。
んで、車を止めて店に入る。店の中は明るく、小洒落た雰囲気の店だったんだ。
「いらっしゃいませ~! お一人様ですか?」
カウンターの奥からぱたぱたと小さな幼稚園児くらいの、エプロンを着けた髪を脇に二つにまとめた……ほら、なんて言うんだっけ? ツインテール? の髪の女の子が出てきたんだ。
俺は一人であることを言って、カウンター席の方へ案内された。座席があったんだがなんだか他の客がいてな、座るに座れなくてカウンターの席を案内せざるを得なかったんだろう。
そして席に座る。女の子がメニューを渡す。
「注文が決まったら、言ってくださいね?」
女の子が笑いながらメニュー表を渡してくれた。慣れないだろうに、精一杯の笑顔で、だ。
そしてメニュー表の中から俺はカツ丼をチョイスさせてもらった。注文し終えた俺はぼーっと待っていたんだ。するとな、隣からカツ丼のいい香りがしてくるんだ。
隣でカツ丼を食っていたそいつは英国紳士みたいな服にシルクハットを付けた奴でな。一心不乱にカツ丼をほおばっていたんだ。まぁ、それはどうでもいい話なんだが……そいつの脇に新聞が置いてあったんだ。その一面が目に入った。
しばらくすると女の子がカツ丼を持ってきてくれた。隣のシルクハットと同じカツ丼が出てきた。俺も割り箸を割ってカツ丼を食べ始めた。
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