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しばらくしていると女の子が、
「町のほうで、強盗があったらしいですね」
ぽつり、と話した。
「おっきなデパートのなかにある宝石店が、全部襲われたって話。怖いですよね」
女の子は独り言を訥々と喋っていた。
「しかも犯人はまだ捕まっていないんですよね。現場の犯行は合い鍵を使っての犯行らしいって話なんですけど店員さんには全員アリバイがあった。なら全員犯人ってセンか全員無実、あるいは部外者の犯行って事なんですよね」
そう言って俺の方を見た。
「……どう思います? お客さん」
……どうと言われても。
俺が無言でカツを咀嚼していると女の子は無邪気に笑って、
「あははっ。そうですよね。全然関係ないお客さんにこんな事を話しても意味がないですよね。でも、私には意味があるんですよ。実は私、こう見えてめーたんてーなんです」
名探偵、と発音したかったのだろう。女の子は言った。
「話、続けますね。――えっと、この中で一番濃厚なのは全員無実。理由はその日のアリバイは『不完全で完璧なアリバイ』だったから。これが『完全で完璧なアリバイ』だったなら店員さんの誰かが犯人だったんだろうけど、生憎全員のアリバイは完璧。第三者の口止めだって効く。しかし当事者にはそれをする動機がほぼ無い。よって『不完全で完璧なアリバイ』が成立している」
不完全で完璧なアリバイ、とは何なのだろうか。完全で完璧なアリバイなら分かるが。
「完全で完璧なアリバイというのは成立しているが、その成立がお膳立てされた『完璧』……つまり、あまりにもできすぎているアリバイのことを言うんです。たとえば時間トリック。1日前にAさんを殺してA'のお店へ行くのに15分かかる。しかしその15分の間、引っかかりを感じないほど完全なアリバイが成立している。しかも当人はそのA'のお店で頼んだ物や新聞、どの雑誌を読んでいたのかをきちんと言って……これのどこがおかしいのか。その理由は当人が1日前の出来事を一言一句覚えていたから」
……やはりどこがおかしいかわからない。たった1日前ならそんなことを覚えていて当たり前だろう。痴呆が入っている老人じゃあるまいし。
「よく考えてください。15分の間の出来事をどうしてそんなに鮮明に覚えているんですか? ご丁寧に頼んだ物や新聞、どの雑誌を読んでいたかまで教えるなんて。不自然の塊ですよ」
……なるほど。確かに言われてみればそうだ。
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