22人が本棚に入れています
本棚に追加
チィッ。舌打ちをすると、勇者は戦士の体を守るように身を盾に仁王立ちの体制に入る。それを愉快そうに見ていた魔王は、空中に留まっていた魔法を放つように僧侶を操った。
小さな斧のような回転する刃が二、三。こちらに向けて飛来し、勇者の身を撫で、鋭く断ち切るような切り傷を作る。勇者の真っ赤な体液が鎧の繋ぎ目の切り口から溢れ出す。
ぱっくりと裂けた傷口からは留めどなく体液が流れで、体液が体内から流れ落ちて行く度に力まで流れ落ちていくようだ。
思わず仁王立ちの体制を解き、自身の体液で作られた血溜まりの中に膝を落とす。既に床の感触は消え、手に持つ伝説の剣は光を失っていた。
『こうして居ると少し不思議な違和感を感じる。何か懐かしいような――そのような感情は我にも無く。懐かしむような思い出など我に無く』
自身に陶酔しているように口を開いた魔王の言葉は、こちらに向けられた言葉ではなく、本当に自身に向けて放たれたようだ。
最初のコメントを投稿しよう!