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「カホちゃん。次バッターね」
急に愛ちゃんが私に声をかけた。
「ええ?私……ですか?」
(危ない危ない。ここでは敬語だった)
「カホちゃん昔から野球うまかったもん。ほら、いって」
(そんなの遊びの野球であって…嘘ぉぉ!?ホントに?)
困惑する私はバットを渡され、振り返って他の1年部員に目で訴えても『頑張って』と笑うだけ。
(まさか…これが私のデビュー戦?)
「お…お願いします」
何とか声を出して、ガクガクしながらバッターボックスに入った。
「お、1年?よろしくぅ」
イケメンのピッチャーの先輩が爽やかに微笑んだ。
「あれ?バット構えたら、アンタ誰かに似てる」
「へ?」
キョトンとしている私に、野球部の先輩達が口々に言い出した。
「あ!おかわり君」
誰かが叫んだ。
「ホントだ。おかわり君に雰囲気似てる!」
おかわり君…ポッチャリ体型のすごいプロ野球選手。
そうなのだ…当時の私はスレンダーな部員が多い中、少しポッチャリさんだった。
両方の部員達に爆笑される中、負けん気だけは強い私の闘志に火がつき、その時の私は恐ろしい程に冷静になっていた。
「ぷくくっ…可愛いおかわり君…んじゃいくよ」
半笑いで先輩がボールを投げた。
“パカッ”
「うっ」
打った球はたまたま…ピッチャーの股間にヒット!
「あっはははー!」
もうみんな大爆笑。余程インパクトが強かったのか、以降私は野球部の先輩達に『かわりちゃん』と呼ばれる事に。
そして私はオヤツを我慢することを固く決意した。
間もなく辻さんが部活を辞めた。
「かわり!今日もブッサイクな顔」
(なっ?何で今日もいきなりこんなこと言われてるんだろう?名前も知らないのに…)
学校内で出会った私に“辻さんと付き合ってる”らしい先輩が声をかけてきた。
「カホちゃんコイツ知り合い?ってか、仮にも女の子にそんなこと…言うか、普通?」
「うん…会う度にいつも言われてるから…敬ちゃんの友達だったんだ」
私と小学校が同じ1つ上の敬造(敬ちゃん)は人数が少なかったから昔から仲のいい男の子で、何故か大の友達がこの先輩だった。
「コイツ面白いから」
私の何が面白いのか、この先輩はことあるごとに絡んで来た。
ある時は、向かいの校舎で書道の時間の先輩が…『かわり ブス』とご丁寧に半紙にブタの絵まで描いて振っていたこともあった。
でも、縁はいなもの味なもの…ってね。
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