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文化祭ーーー
私達茶道部は浴衣を着て、中庭で野点。と言っても、練習をサボリ気味の私はお点前なんて夢のまた夢…だから裏方で、ひたすら中庭の隅に設けられた間仕切りスペースでお客様分のお茶を点てていた。
「かわり、おまえ本当に茶道部だったんだな」
不意に後ろの廊下の窓から大好きな声が…驚いて振り向くと、先輩達が来ていた。
「えっ…ええ?」
「あ、コイツの最近出来た彼女がココの2年の子で、コイツがど~うしても行きたいってんで来てやったんだわ」
「あ…はあ」
(どうせ、そんなことだよね)
少しがっかりしながらも、思いがけず会えた先輩に、内心かなり嬉しかったりする。
「しっかし…何着ても似合わんのう。どこの相撲部屋から来た奴かと思ったわ」
まじまじと上から下まで見てから、残念顔をして先輩は言った。
「おまえ、かわりちゃんにいつもキツイわ」
友達は呆れたように言ってるが…
(いいの、いいの。今日会えただけでも超ラッキーなのだ)
私は至ってポジティブで…
「あの人達カッコよくない?」
誰かがそう囁き合ってるのが聞こえた。
(ふふっ…でしょっ!特に先輩わっ!)
私は1人でニヤニヤしてた。
「じゃ俺ら行くわ」
(もう?あ、また誰か女の人達と一緒か…)
視線の先には、何人かの男女が待っていた。
(いかんいかん。またブサイク顔になってしまう。今は…お茶を点てないと)
茶筅を持ちチラッと先輩達が行った方を見てから、またお茶を点て始めた。
(何か…イラッとくる)
苛々しながら点てる茶は、さっきまでのようにはいかなくて…ちっとも上手く点てられない
「はあ…何を期待してんだろ…私」
会えるだけで幸せなのに…
声を聞くだけで満足のはずなのに…
私…もっともっと…先輩と一緒にいたい…
「やっほ、カホ、来たよん」
文化祭も終盤になって、瞳が遊びに来てくれた。
「瞳のクラスもういいの?」
「もう完売。疲れたあ」
私は瞳の為にお茶を点て始めた。
「先輩…来てたね。会った?」
「うん。友達の彼女が2年にいるんだってさ」
そう言いながら“シャッシャッ”と点てる私に瞳が言った。
「カホって一途。まだ諦めてないんでしょ?」
私は茶筅を置き、瞳にお茶を渡して言った。
「うん…」
諦め…られないよ。だって、あの頃よりもっと好きだもん…
会うたびに…声を聞くたびに…どんどん“好き”が増えるんだから…
いつだって溢れそうなんだから…
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