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『あーぁ。なにやってんの祐。』
『…母さん。』
亡くなった筈の母が口元のほくろを揺らして僕の横にいる。
『……ってことは…。』
『うん!アンタ死んだね!』
『ひどいなぁ…。』
なかなかはっきり言う様は生前そのままだ。
『ここは走馬灯を繋ぐ場所って言ってね。後悔があるとここに来るんだよ。娘を残してあんな死に方すりゃそうなるね』
『…だね。でもゆかりが生きてるなら僕は後悔なんかないかな。』
僕は子煩悩だった。
もう、そりゃ馬鹿がつく位。
出来れば食べてしまいたい程にゆかりが大好きだった。
といえばなんだか変態ぽいがとにかくゆかりが大事で大事で仕方なかった。
『後悔だけではこないんだよ。ここでは選ばされるのさ。次に生まれ行くか留まるか、それとも…をね。』
『どういう意味?』
『ここは走馬灯を歪める場所でもあるんだよ。』
『歪める?』
『母さんはお前の孫を見たくて留まった。』
『うん。』
僕はあぐらをかき、白い空間に浮かぶ母の話を聞く。
『現世で自分の大事なものに何かがあった時、代償を捧げ、救う事が出来る。』
『代償?』
『そう。代償はね、存在。分かりやすく言うなら魂だよ。』
『魂を捧げたらどうなるの?』
『生まれ変われなくなる』
『ふーん。』
『いっとくけど母さんはアンタを救わなかった訳じゃないよ?救いたかったけどアンタが死に際迷わなかったから救えなかったんだからね!』
『なるほど。迷えばよかったのか…。』
『親になんてこというんだい!』
口元のほくろを揺らしながら、だからもう未練は無いのだと、母は光の眩しい方へと消えていった。
【めったなことに魂使うんじゃないよ】
と言い残して。
-END-
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