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――――んー…。
『目が覚めた?』
柔らかな声で目を覚ますと私は見たこともない、ただ白い。白い空間にいた。
果てしなく白、他には何にもない。…重力もない…?
……なんなの?…ここは…。
驚きすぎて声も出ないでいる私に、さっきの柔らかな声が今度は名前を呼んだ。
『ゆかりちゃん』
はっとして、振り向くと青年がいた。私はその人物に激しく問いかけた。
『ここはどこなの!?
一体なんなの!?あなたは誰!?』
自分の置かれた不安を解消しようと捲し立てるようにきいた私に
『……落ち着いて?』
困ったように首を傾げる青年は私よりも少し下の年頃だろうか?
私の唇に指先を当て自分の唇にも指先を立てている。
『静かに、ね?』
音もなく柔らかな栗毛が揺れた。
ようやく落ち着くことが出来た私に彼は話し始めた。
『僕が、君に教えてあげられるのは。君の名前だけなんだ…。ゆかりちゃん…。』
知っている全てが何もない空間。
今にも泣き出してしまいそうな私に……
知っている…全て……?
私は……?
『君はなにも覚えていない…ね。』
ふと、寂しげな目をしたかと思うと青年は続けた。
『君は『ここ』に景色を増やしていかなきゃならないんだ。
それが今、君に出来る事。
そしてすべき事。』
『待って!!意味がよくわからない…!!』
彼は再び混乱しそうな私をなだめつつ、彼はそっと前方を指差した。
先ではぼうっと暗がりが広がっていて、その先で女の子が泣いている風景が浮かんでいる。
気づけば白い空間は消え去っていて、私はその風景の中にいた。
周りを見渡しても青年の姿は見えない。
見えないが彼の声だけが響いた。『その子の話を、聞いてあげるんだ…。』
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