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「静かにしろ!」
番頭の長助が睨みを利かせてざわめきを抑えた。水を打った様な静けさが戻った。
長助は取手の生まれであった。父親は浅草の行商人で江戸で仕入れた小間物を水戸街道沿いの街々に売り歩いていた。ちょっといい男で客は女が多かった。勢い定宿にしていた取手宿の宿屋の女と懇ろになった。そして生まれたのが長助であった。実は双子であったが長助は母親が、弟は父親が引き取った。父親と弟の記憶は無い。叔父が近所の寺の墓守をしていたので物心付いた頃には寺で小坊主に混じって遊んでいた。文字も寺で覚えた。
十三になった年、ちょうど再興された小堀屋に奉公に出された。丁稚として雑用の明け暮れから花形の船頭に憧れた。見習いから船頭になった。しかし小堀屋兵六に才を見出されて帳場の手代に引き抜かれた。そしてついに先頃深川小堀屋の開店に伴って番頭に昇格して名を長助と改めたのであった。厳しい生存競争の生き残りとなったのである。故郷では長助の成功物語で持ち切りである。母親の親類内での扱いも随分と良くなった。長助にとって深川小堀屋は命より大事な店であった。自分の存在を世に実証してくれるのが深川小堀屋と言っても過言でなかった。おめおめ尻尾を丸めて小堀河岸に帰ることなどできないのであった。命を賭しても守らなければならなかった。
「お前たちの命は私が預かる。それができない者もいるだろう。その時は小堀河岸に帰って兵六爺ちゃんを助けてやっとくれ」
ともは妻子持ちの奉公人の逃げ道を付けてやった。十兵衛から口を酸っぱくして叩き込まれたことであった。それでも否やを言う者は誰もいなかった。
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