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いかにも『面倒だ!』と顔に書いてあるが、二人は無情にも彼女を送り出した。
と、その時である。来賓席の方から一瞬殺気を感じた、キール。
ほんの一瞬だが、それを甘く見ていると痛い目に遭うだろう。しかし、今彼女のそばに寄ることはできない。いくら護衛といえど皆さんへの感謝の気持ちを伝えるこの場面で、彼女の両脇に佇むわけにはいかない。
素早くカイルに目で合図をし、周囲に気を張った。
その瞬間一瞬にして部屋が暗くなり、窓ガラスが割れ、辺りは恐怖に怯える人の絶叫が木霊した。
2人は戦闘態勢を維持しつつオフィーリアの元へ駆け寄ろうとするが、突如現れた刺客に足止めをくらっていた。
「カイル!ここは僕が受け持つよ!早く彼女の元に!急いで!」
キールはカイルの前に立ち、刺客を前にして腰に下げていた剣を抜く。その様には、普段の優しげな雰囲気はなく敵を殲滅するという強い意志の籠った目で相手を見据えている。
つぅとカイルの背中に冷や汗が流れた。頭の中で警報が鳴り響く。ここまでキールを怒らせたことは、記憶上ない。実の弟に畏怖されるぐらい、今の彼には覇気があった。ある意味で相手に同情すら覚えてしまうと同時に、この状況に改めて危機感が生まれた。一刻も早く彼女の元へ行かなければ、取り返しのつかないことになる気がしたのだ。
「分かった!彼女を保護次第、あの場所に潜んでおくよ。・・・死ぬなよ、兄さん。」
キールに背を向け、駆け出す。
こうして、とても長い夜が始まった。
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