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朝食のコーヒーを入れている時に、ふと外を見た。
冬の澄んだ空気が朝の光と交わり、いつも見ている町並みが輝いて見えた。冷たく静かないつもと違う町がそこにあった。
だが、その美しさはカラスの羽音ひとつで簡単に終わってしまう。いつもの寒々しい日常の風景がガラスの向こうある。
冬の美しさはそういうものではないかと思う。
例えば、張り詰めた寒さの中、プラットフォームの上で縮こまっている時に、ふとした弾みで凍てついた世界が弱々しい冬の太陽を受けて光り輝く瞬間を目にしたら、心も身体も一緒に美しさの中に凍りついてしまいそうになる。
だが、その輝きも美しさも、通過する急行に寒さだけを残して、すべて剥ぎ取られてしまう。
だが、そんな冬の美しさが私は好きだ。
街を歩きながら、彼女にその事を話した。だが、彼女は笑いながら、分からないわ、と答えた。あなたの言うことはいつも難しすぎるのよ、と付け加えられた。
信号待ちで立ち止まった時にぱらぱらとみぞれ雨が降ってきた。
その瞬間、私は息を飲んだ。
まだ、青色の残る空から落ちてくる雨粒は冬の冷たい光を含んで、ビルの間を降りてくる。すべての窓、すべてのガラスに、みぞれ雨の輝きが乱反射する。まるで水晶のかけらが空から撒かれたかのようだ。
ぎゅっと私の手が握りしめられる。彼女のため息混じりの、こういうことなのね、という柔らかな声が聞こえた。
優しく手を握り返す。
信号が青に変わり人々が動き出す。そうすると光り輝いていたみぞれ雨はただの陰欝な冬の雨に変わり、青い空は鉛色の雲に塗り替えられ、ビルの窓は無機質な鈍い色に戻っていた。
人々は急ぎ足で横断歩道を渡っていく。私たちもその流れにつられるように歩きだした。
お互いの手を握りしめながら。
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