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『なぜ門から出てしまったのだろう』
首輪に着いているネームプレートが走る度にカチャカチャと音をたてる。
文字は読めないが、家族のみんなが自分の事を『シロ』と呼んでいるので、おそらくその名前が刻まれているのであろう。
その男と鉢合わせしたのは、家の門から出て、公園に向かっている途中だった。
いつもは行きたい所に行こうとしても首輪を引っ張られ、毎日決まったコースを歩かされるのだが、今回は自由だ。
公園に向かうにも少し違うルートで歩いていた。
その時、細い路地裏で苦しそうにしている人間がいた。
少し怖かったが恐る恐る近づいて顔を覗き込む。
顔色が酷く悪い。
そしてこの“匂い”はいったい何だろう。
明らかに肉が腐り始めている匂いだ。
血も古くなっているだろう。
その匂いが目の前の人間から漂っている。
あまりに強烈な匂いな為、この人間が雄なのか雌なのかわからない。
ふだんなら一瞬で見分ける事が出来る自慢の嗅覚をもってしてもだ。
すると苦しそうにしていた人間がこちらに気づいた。
「アアアァ…」
直感的に危険を感じ、すぐにその場から走り去る。
ある程度距離をとって後ろを振り返ると、その人間は足を引きずりながら追ってきていた。
足取りは遅い。
追い付かれる心配はなさそうだが、気味が悪い。
それに腹もすいてきた。
そろそろ家に戻りたいがアイツが追ってくる。
とにかく距離を離そうと全力で走った。
どれくらい走っただろうか。
辺りを見渡すといつも良く行く公園の中にいた。
確か近くに穴が開いた金網があったはずだ。
そこを通れば家への近道になると思い、行ってみる。
柵に穴は確かにあったが、通れるか微妙な大きさだ。
散歩の時によくみかけていたが、通るのは初めてだ。
いざ、くぐり抜けようと頭を入れたが、身体が引っかかる。
諦めようとした時、突然身体を掴まれた。
「アアアァ…」
それはアイツの声だった…
‥
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